love and beauty will save the world   〜from the diary of a tennis player


 

2006年10月12日 木曜日


木曜、午前0時半。彼はベッドに入って眠ろうとしていた。だが、くだらない思考がテニスプレイヤーの脳に入り込んできた。一時間半後、混乱した頭にぐったりと疲れ果て、ようやく彼は眠りに落ちた。

午前11時20分、目覚ましが鳴った。俺の人生の新しい一日を告げるサインだ。また一日、命が延び、また一日、死に近づく、とテニスプレイヤーは思った。何もかもがすばらしい、と思えたのは、トイレが壊れているのに気づくまでだった。前にも言ったと思うが、親というものは、子供のために何だってしようとする……そこで俺はこの機会を利用することに決め、俺専用のレスキューチームに電話をかけた。親父だ。

そんなわけで、今日の親父は忙しい。ほかにも俺のためにいろいろとやらなきゃならないからで、金を銀行から銀行へと移す雑用なんかもしてもらった。親父がそいつをどこかで使っちまっていないことを祈る。カジノとか、この世の何か美しいもののためにさ。

俺はそれから友人のアロンと、仕事を頼んでる建築デザイナーの女の子といっしょに朝食をとった。すべての女がそうであるように、彼女も二十分遅れてやってきた。そこでようやく、俺の未来の孫の家についての打ち合わせが始まった。この前の打ち合わせで喧嘩したときから、俺たちなんとなく恋人同士のような感じなんだ。だれにでも経験のあることじゃないかな。わかるよね。

依頼人と請負人の話し合いが終わったところで、彼女は金を要求した。すべての女がそうであるように、女は美しければ美しいほど、金を必要とする。これはただの一意見だ……あまりまじめに受け取らないでくれ。ま、いずれにしてもこれを書いているのはニコラだから、誰が責められるべきかは明白。これらの意見のすべての責任は彼が負っている。あとで彼の連絡先を記しておこう。何か言いたいことがある人がいるといけないからね。金を払ってようやく解放されたところで、やっと仕事に行けるようになった。仕事をして、金を稼ぐのさ。

道路はひどく混んでいた。クラブに着くのに一時間ほどかかった。すてきな車をもっていれば、悩みから逃れて一人きりでゆっくり休息する時間がとれる。なんで夫や妻が何かと理由をつけては家を離れたがるのか、いまの俺にはよくわかる。

さて、クラブに着いた。目を開けていられなかったのでコーヒーを三杯飲んだ。アレックスといっしょにウォームアップした。そうしたら十分後、気分が悪くなりはじめた。からっぽの胃にエスプレッソを流し込んだからで、体がぞくぞくしはじめた。そんな経験は初めてだったから、とりあえず激しい動きはやめにした。

練習を終えて、昔なじみの友人たちと昼食をとった。そして当然のごとく、俺の前の二試合はスリーセットにもつれこんだ。デメンティエワが二つのマッチポイントを逃れた。ヴェスニーナはモーレズモに負けた。俺はいまやすっかり女子テニスに詳しい。

さて、いよいよ出番だ。ダニエレと対戦するのは初めてだったが、前にも言ったように、俺はイタリア人に大いに敬意を払っている。彼らはこの地球上で最も天分に恵まれた国民だからだ。理由はわかるだろう。ひょっとしたらバチカンには神様との直通電話があるのかもしれないな。だから彼らは選ばれし者で、あの国はまったく働かなくてもやっていけるのだろう。羨ましいことだ。

俺は第一セットを取られた。彼はいくつか信じられないようなショットを放った。いいリターンウィナーもとり、セットをもっていってしまった。俺は頭のなかで「あきらめてはいけない」と思った。2回戦で負けるわけにはいかない、観客を失望させてはいけない、と自分に言い聞かせた。ブレークを果たし、第二セットを取ったら、ずっと気分がよくなってきた。そして第三セットもラッキーだった。俺はブレークをして、試合に勝った。無事に準々決勝に進めて、とてもほっとした。次の相手はティプサレビッチ。ACミランのガットゥーゾにそっくりな男だ。

試合のあと、会見をこなした。また一連の質問を受けて、仕事を終えた。ちなみに、これは言っておかなくてはならないのだが、今日の観客にはとても満足している。水曜の夜遅くだというのに満員の客が入ってくれた。例によってニコラが特別の一枚をほしがるものだから、階下にいた格好いいお兄さんたちに頼んでいっしょに写真に収まってもらうことにした。

さて、いま俺はマッサージ台の上で明日の試合の準備をしている。ニコラは飽きた様子で、帰り支度をしている。スウェーデン大使館(そういうナイトクラブ)に帰るのさ。俺は一人きりのアパートに帰るよ。そして、今夜は少し早く眠るように努力する。

みんな、おやすみ。場所によっては、おはよう、あるいは、こんにちは、かな。

この地上でもう一日過ごせるのは、すばらしいことだ。だからどうか俺のために、できるだけその一日を楽しんでくれ。そして、まわりの人みんなに、分け隔てなく優しくしてやってくれ。愛と美がこの世界を救うのだから。

では。マラトより。

 

原文